法事のあとで

 土曜日ということもあり、一周忌の法要にでかけたときのことでした。ご主人が亡くなられて勤める年忌でした。亡くなられたご主人の奥さんは、昨年の夏以来、入院を余儀なくされており、そのため、家族の人たちはご主人が亡くなられたことを知らせてないようです。
 法事の後、場所を変えてお斎の場が設けられました。施主のお嫁さんが私のところにお酒を注ぎにいらしたときのことでした。
 嫁「私、ご住職さんに謝らなければいけないんです」と。
住職「どうしてですか、どうされたのですか」
 嫁「今年の4月のことですが、入院をしている母のところへ見舞いに行く前にご住職さんのお寺に咲く桜の花を一本折って持っていったのです。本当はひと言お断りをしなければいけなかったのですけれど…。」
住職「ああ、いいですよ、いいですよ。お母さんはいつも4月の祠堂 法要にそなえて、お寺のお花立てにいらして見えましたから、
その時にはいつも、“桜がきれいに咲いてますね”と仰って見えました。」
 嫁「今日、法事の席でご住職さんのお顔を見ておりましたら、すごく申し訳ないことをしてしまったなと思いまして、どうしてもひと言謝っておきたかったのです」
  「それから、お母さんには○○寺さんの桜の花だよと言って見せてあげました。病室からは外の様子が見ることのできない患者さんばかりでしたので、他の方にも桜の花を見せてあげたんす。」
住職「皆さん、喜ばれたでしょうね」
 嫁「はい。桜の花の香りがわかるように顔のすぐそばでお花を見せてあげました」

◎私にとって損か得か、自分の思いを通すことに執着する生き方が蔓延している中、 お嫁さんの姿から大切なことを教えられたようでした。法事はご門徒のみでなく、住 職も学ぶ立場に起たしめられていることを教えられました。