息子よ

 遠方のお檀家さんのお宅へお参りをしたときに、ふと、その家のご当主が仰っていらしたことを思い出した。確か、昨年報恩講参りに伺ったときのことである。
 その家のご主人は幼きときからお母さんに連れられてお寺へお参りに行かれたそうだ。そのご主人のお母さんは大変熱心な聞法者であったと聞いている。そのお母さんの影響を受けたのか、ご主人も今は亡きお母さんに負けないくらい熱心な聞法者である。本棚を見てみると所狭しとびっしりと真宗の御教えについて書かれた書物が列べられている。なかでも、多田鼎師の説教を聞きに行かれていて、その頃の聞法の記録のようなものや、多田師の著書が数十冊列べられている。ご主人が仰るには、「私には二人の息子がおります。親として二人の息子に何か遺してやりたいと思って多田先生の書物を2冊ずつ揃えたのです。息子たちが読んでくれるかどうか分かりませんが…」
 そして数十冊ある本の一冊を取り出され、本の末尾に「あなたのそばに置いて、あなたが読みたいと思ったときに読んでください  父より」というとても短い文章の中に親としての願いが凝縮されているように感じました。お念仏をいただいた真宗門徒の姿に頭が下がる思いであったことを想起しておりました。